空想社会人日記

※フィクションです

Yとのこと

人はなぜ、他者に手を伸ばすのか。

 それは本当に他者のためなのか。それとも、自分のためなのか。

 この問いに、明確な答えを与えることはできない。なぜなら、その二つは分けることができないからだ。

 Yと出会ったとき、彼はすでに、どこかで停滞していた。

 生活は成り立っていた。仕事もこなしていた。長く付き合った恋人もいた。だが、そのすべてが、緩やかに均衡を保ちながら、同時にどこへも向かっていなかった。

 時間は流れているはずなのに、進んでいる感覚がなかった。

 その状態は、苦しみというほど明確ではない。

 むしろ、静かな麻痺に近い。

 Yは、その均衡の外側から現れた。

 彼女は不安定だった。だからこそ、明確だった。

 何に困っているのか、何を求めているのか、どこに居場所がないのか。

 彼女の中では、それらが曖昧ではなく、むき出しのまま存在していた。

 彼はそれを見た。

 そして同時に、自分にはそれを支えることができると思った。

 いや、正確には――そう思いたかった。

 人は、自分に役割を与えることで、自分の存在を肯定しようとする。

 「支える側」であることは、彼にとって一つの意味だった。

 だがその意味は、純粋なものではない。

 彼が彼女に手を伸ばしたとき、そこには確かに善意があった。

 しかし同時に、自分の停滞を破壊したいという欲望もあった。

 この二つは、同時に成立していた。

 そして、それらは互いに区別することができない。

 彼は次第に、境界を曖昧にしていった。

 本来、越えてはならないはずの線。

 職務と私情の境界。

 他者の人生と自分の人生の境界。

 それらは一つずつ、意識されないまま、消えていった。

 人は、自分が越境しているとき、その事実をはっきりとは認識しない。

 気づいたときには、すでにそこに立っている。

 Yは、彼を必要とした。

 その必要は、明確で、疑いようがなかった。

 彼にとって、それは心地よいものだった。

 なぜなら、必要とされることは、自己の存在を保証するからだ。

 だが同時に、それは依存の構造を生む。

 必要とされる側は、必要とされ続けることを望むようになる。

 そのとき関係は、対等性を失う。

 彼はそれを理解していた。

 だが、やめることはできなかった。

 やめるということは、自分の役割を失うことでもあったからだ。

 彼には、恋人がいた。

 長い時間を共にした存在。

 だがその関係は、すでに安定という名の停滞に変わっていた。

 そこには安心があったが、同時に緊張がなかった。

 未来に対する運動が、感じられなかった。

 彼は、以前から一つの条件を自分に課していた。

 「自分を強く求める存在が現れたなら、そのときは変わる」

 それは選択の基準であり、同時に決断を先延ばしにするための装置でもあった。

 そして、Yが現れた。

 彼はそれを「波」と呼んだ。

 ここで重要なのは、その波が本当に不可避だったのかどうかではない。

 重要なのは、彼がそれを不可避なものとして認識したという事実である。

 人は、自らの選択に意味を与えるために、外部の要因を必然として語る。

 しかし実際には、その選択は常に自分のものである。

 彼は、恋人との関係を終わらせた。

 それはYのためではない。

 完全に自分のためでもない。

 その両方であり、そのどちらでもない。

 ここにおいて、行為の純粋性は崩れる。

 だがそれは、行為が不純であるということではない。

 むしろ、人間の行為は本質的に複合的であり、単一の動機に還元することができないということを示している。

 彼は考える。

 これは正しかったのか。

 だが、その問い自体が、どこか不適切に思えた。

 正しさとは、結果によって後付けされる概念である。

 行為の瞬間において存在するのは、ただ選択だけだ。

 彼は選択した。

 そして、動いた。

 それがすべてである。

 人は、選択する存在である。

 そしてその選択から逃れることはできない。

 たとえ選ばないという選択をしたとしても、それもまた一つの選択である。

 彼は、止まることをやめた。

 それがどこへ向かうのかは分からない。

 だが、方向を持たない安定よりも、不確実な運動を選んだ。

 それは自由であり、同時に責任でもある。

 自由とは、選べることではない。

 選んでしまうことだ。

 そして責任とは、その選択を引き受け続けることである。

 彼はまだ、その途中にいる。

 意味は、これから与えられるのかもしれないし、最後まで与えられないのかもしれない。

 それでも、彼は知っている。

 あのとき、自分は確かに選んだのだと。

 そして、その事実だけは、消えることがない。

Aとのこと【最終回】

最近の僕は、妙に軽い。

 身体の奥にたまっていた何かが、いつの間にか抜け落ちていて、歩くたびに少し浮いているような感覚がある。大学に入って、一人暮らしを始めたあの頃に似ている。あのときも、理由の分からない解放感があった。世界が急に広がったような、どこへでも行けるような錯覚。

 いまのそれは、きっと錯覚ではない。

 僕は、Aと別れた。

 十九の頃からだから、七年になる。時間の長さだけを見れば、ひとつの季節どころか、ひとつの時代だったのかもしれない。

 Aのことを嫌いになったわけではない。

 ただ、この人とは結婚できない、とどこかで思ってしまった。

 理由はいくつもある。けれど、それらはすべて同じ場所に収束していく。僕が、彼女を受け入れるだけの余裕を持てなかったということ。あるいは、受け入れようとし続けることに、疲れてしまったということ。

 僕たちは、壊れたわけではない。

 ただ、同じ方向を見ていなかった。

 それだけだ。

 職場では、新人の教育を任されている。去年からだ。

 家に帰れば彼女がいて、仕事に行けば新人がいる。

 気づけば、僕はどこにいても誰かを気にかけていた。

 教える側でいること。

 先回りして考えること。

 相手が困らないように、道を整えておくこと。

 それがいつの間にか、僕の生活そのものになっていた。

 息が詰まる、というほどではない。

 けれど、どこにも逃げ場がない感覚が、ずっと続いていた。

 去年、僕は彼女に言った。

 結婚の準備をしてほしい、と。

 彼女は、何もしなかった。

 一年が過ぎて、理由を聞いたとき、彼女は言った。

 何をしていいか分からなかった、と。

 その言葉を聞いたとき、僕の中で何かが静かに終わった気がした。

 怒りでも、失望でもない。

 ただ、ああ、そうか、と思った。

 僕はこれまで、彼女の先を歩いてきた。

 彼女がつまずかないように、選択肢を減らし、危うい道を避けてきた。

 その結果、彼女は何も選ばなくてもよくなっていたのかもしれない。

 それは彼女の問題であり、同時に僕の問題でもあった。

 いつからか、僕たちのあいだには、言葉にしない上下が生まれていた。

 それに気づいていながら、見ないふりをしていた。

 別れようと思ったのは、最近のことではない。

 もっと前から、ずっと考えていた。

 学生の頃にはすでに、いや、その少し前から、僕の中では揺れていた。

 このまま一緒にいるべきか、それとも離れるべきか。

 どちらも、正しい気がしていた。

 どちらも、間違っている気もしていた。

 僕は彼女と、結婚したいと思っていた。

 同時に、別れたいとも思っていた。

 その二つの感情は、長いあいだ、互いを打ち消すことなく共存していた。

 けれど、時間は進む。

 僕は二十五歳という区切りを、自分なりの節目としていた。

 そこまでは、勢いでいけると思っていた。

 好きだという気持ちだけで、なんとかなると信じていた。

 だが、二十六になって、急に視界が澄んだ。

 この人では、だめだ。

 その言葉が、驚くほど静かに、確信として浮かび上がった。

 僕は、ひとりでいる時間が好きだった。

 映画を見て、本を読んで、何かを考えて、また忘れて。

 そうして得たものを、誰かに話したり、話さなかったりする。

 自分が少しだけ賢くなったような気がして、それが心地よかった。

 けれど彼女と過ごすようになって、その時間は少しずつ削られていった。

 インプットが減り、アウトプットだけが残った。

 空っぽの引き出しから、何度も同じものを取り出しているような感覚。

 補充しても、すぐに尽きる。

 自転車を止めれば、倒れてしまう。

 そんな状態が続いていた。

 だから、別れを告げたとき、思っていたほど悲しくはなかった。

 彼女は泣いていた。

 けれど、その涙の向こう側にある僕の時間を、彼女は知らない。

 僕はもう、何年も前から、少しずつ別れていたのだ。

 完全に離れるための準備は、すでに終わっていた。

 以前、誰かに言ったことがある。

 もしも、この先、自分のことを今の彼女以上に好きだと言ってくれる人が現れたら、その人と一緒になる、と。

 それは仮定の話だった。

 現実になるとは思っていなかった。

 けれど、その人は現れた。

 だから僕は、Aと別れた。

 それだけのことだ。

僕には友達が少ない

僕には、友達が少ない。

 それは事実であり、同時に、どこかで自分が選び取ってきた結果でもある。

 社会人になってから、誰かと新しく関係を築くことは、ひどく億劫になった。時間がないわけではない。ただ、仕事が終わったあとに、もう一度誰かと向き合うだけの余力が残っていない。

 同期はいる。話もするし、時には笑う。
 けれど、そこには見えない線が引かれている。越えてはいけないわけではない。ただ、越える理由がない。

 僕の職場は女性が多い。そのことも、どこかで距離を固定している気がする。

 来年度、新しく男が一人入ってくるらしい。

 これで職場の男は二人になる。

 うまくやれるだろうか。
 後輩だが年上らしい。関係の輪郭が曖昧なまま、最初からそこに置かれる感じがする。

 ふと、どうでもいいことを思う。

 ――僕よりイケメンじゃないといい。

 その考えが浮かんだ瞬間、すぐに消したくなる。
 けれど、消えない。

 僕に友達が少ない理由は、二つある。

 転勤族だったこと。
 そして、高校時代の友人たちと距離を置いたこと。

 七歳までは福岡、そのあと愛知に移り、十四歳までを過ごした。

 だから、僕には「地元」というものがない。

 帰る場所、という言葉が、どこか他人事のように響く。

 寂しさは、確かにある。
 けれど同時に、どこにも縛られていない感覚もある。

 どこにも属していないということは、どこへでも行けるということだ。

 それを自由と呼ぶのか、空白と呼ぶのかは、まだよく分からない。

 同じ場所で育ち、同じ人間関係の中で歳を重ねていく人生を、羨ましいと思うこともある。
 だが同時に、その閉じた円環の中で呼吸を続けることに、わずかな息苦しさを覚える。

 井の中の蛙。

 その言葉を、僕はどこかで恐れている。

 大学時代の友人が、地元に戻ると言ったとき、僕はそれを否定した。

 正しさを語ったつもりだった。
 けれど、ただ自分の不安を押し付けただけだったのかもしれない。

 ――ごめん。

 その言葉は、今でもどこかに引っかかっている。

 土地を移るたびに、僕は友達を作った。

 だがそれは、季節のように入れ替わる関係だった。
 長く続くことを前提としていない、どこか軽い結びつき。

 それで満たされていたはずなのに、ふとした瞬間に、足りなさだけが浮かび上がる。

 高校の話をするとき、僕の中で何かが少し硬くなる。

 中学時代、僕はほとんど勉強をしなかった。

 夜更かしをして、画面を眺め、朝になれば惰性で学校へ行き、授業中は眠る。
 起きている時間は、ただ流れていくだけだった。

 三者面談で、僕は自分の行き先を他人に委ねた。

 提示された数字を、そのまま受け取った。

 偏差値四十四。

 その高校に入って、すぐに理解した。

 ここは、自分が思っていた場所とは違う。

 違う、というより、むしろ――露わだった。

 言葉遣いの荒さも、振る舞いの雑さも、すべてが隠されていない。
 剥き出しのまま、そこにあった。

 最初のテストで、何もしていない僕が上位にいた。

 その事実が、妙に静かに、僕の中に沈んでいった。

 中学の友人に会ったとき、僕はその話をした。

 笑い話にしたかったのだと思う。

 すると彼は、少しだけ考えてから言った。

「中途半端なところには、中途半端なやつが集まるんよ」

 その言葉は、音もなく、深く刺さった。

 逃げ道はなかった。

 それが、そのまま自分の輪郭だったからだ。

 その日から、僕は机に向かうようになった。

 理由は、はっきりしていたわけではない。
 ただ、このままではいけないという感覚だけがあった。

 三年後、僕は別の場所にいた。

 そこでは、人の話し方が違った。
 考え方も、向いている方向も。

 会話は、どこか前に進んでいた。

 高校の話をすると、よくこう言われた。

「学力で人を判断するのはよくないよ」

 それは正しいのだと思う。

 けれど、僕の中の違和感は消えなかった。

 僕が嫌だったのは、学力ではない。

 何もかもに対して、踏み込まない姿勢だった。

 できないままにしておくこと。
 やろうと思えばできると、曖昧なままにしておくこと。

 その空気の中にいると、自分まで同じ場所に沈んでいくような気がした。

 楽しかった記憶は、確かにある。

 笑ったし、馬鹿なこともした。

 けれど、それだけでは足りなかった。

 あるいは、僕がそれを許せなかった。

 今でも、時々顔を合わせる。

 話せば、やはり楽しい。

 だが帰り道、決まって何かが残る。

 言葉にできない重さが、胸のあたりに沈む。

 軽く言われる未来の話。
 根拠のない余裕。

 それらを聞きながら、僕は少しずつ距離を測っている。

 近づかないための距離。

 ――もういい。

 そう思う。

 関係を切る、というほど大げさなことではない。

 ただ、同じ場所に立たないだけだ。

 気づけば、僕の周りには、誰もいなくなっていた。

 それでも、不思議と、静かだった。

Yとのこと⑩

 

付き合ったら付き合ったで距離感がよく分からなくなってしまい、ずっとしていたLINEも送るのをためらった。

でも僕は素直になると決めたから会いたい時は会いたい、好きな時は好きと言うように心がけた。

いつから自分のことを気になっていたのか尋ねた。
僕は会ってすぐに気が合うなと思ったこと。彼女の別れるタイミングを見計らっていたところにYが現れたこと。心配の気持ちから好きになったのかもしれないこと。彼女に気を使えないなと思っていたことをちゃんとできていこと。先輩が後輩に手を出す異常性など色々包み隠さずに話した。

僕のことをいつから気になっていたのかは分からないと言われた。
Yは出会った時にはビビッとは来なかったらしい。
出会った日に僕がYの肘を「しわくちゃやな、脳みそみたい」と言ったことで『私はこの人に一生着いて行く』と決意したことを教えてくれた。意味が分からない。そんなこと言われてそうはならんやろ。

出会って数日後に僕に長年付き合っている彼女がいることを人伝に聞いて『あ、なぁーんだ。彼女いるんだ。残念』と少し思ったらしい。
そういえば最初の方「結婚するなら私のこと絶対呼んでくださいね。私結婚式参加するの夢なんです」とか言っていた。
僕は「いやー、今の彼女とは結婚は無いかな。」と返していたけど、僕の気持ちを確認していたのかな。

僕は天邪鬼な性格だから、可愛い子には可愛いとか言えない。周囲の人間が可愛いと思っているならせめて僕だけでも可愛いと思ってはいけないとか思っちゃう。だから前の彼女には可愛いなんて言わなかった。
でもYには積極的に思ったら言うようにしている。でも可愛い可愛いって言っても他の人も言っているなら意味ないし、僕という特異性は発揮されないとか思っていたから「みんな可愛いと思ってるし言われるなら、僕だけでも言わないでおくよ」と言ったら「他の人からの可愛いなんていらない」と言われた。
Yは僕から言われたいらしい。

でもみんなが思っていることを僕が改めて言うなんて、大衆化したような、なんだかモヤモヤした気分になることは確かだ。

僕が特別な人間なわけはないし、他の人から見てもそうじゃないと思うけど。
僕は僕だけの世界では特別でいたい。

彼女はおそらく他の誰にも言えなかったであろう、過去の男性経験の話をしてくれた。僕を信頼して話してくれたと思って嬉しかったし。その話を今まで誰にも言えなかったんだと思うと心が痛かった。話してくれてありがとう。
僕が僕自身で僕のことを特別にするのではなく、僕は彼女に特別にしてもらおう。
そして彼女の中だけで特別でさえいれば良いのかもしれない。

Yとのこと⑨

昔Yが夜勤の時に連絡してきて「休憩中に涙が止まらない」って言われたことがある。

だからYが夜勤で僕が時間に余裕があるときはいつでも連絡してきても大丈夫なように待機している。
いつてもYの話を聞いてあげれるように。

今週はなんだかYは余裕そうで、先週の不安定さはなんだったんだと思うぐらいだった。笑顔も多かった。

今日の夜勤中の休憩時間はお寿司が食べたいって話をしてきた。どうやら泣いてないらしい。安心した。

じゃあ夜勤終わったらその足でお寿司食べに行こうかと誘った。

OK
また二つ返事。こいつ誘ったらなんでも着いてくるんじゃないか?自分が嫌なことはちゃんと嫌って言わないといけないぞ。心配だ。パワハラになってないかな。

2人でお寿司をたべた。その日のYは10皿も食べて、いつもお昼に良く分からんゼリーしか食べてないYからしたらすごい食べていた。偉いぞ。

お昼すぎぐらいに解散しようとしたけどYは帰りたそうにしなかった。どんだけ家にいたくないんだ?俺と一緒にいたいってことか?

じゃあYは寝てていいから、俺カラオケしてるよと言ってカラオケに行った。僕はカラオケが好きだし、ハマっているなにわ男子を歌いたかった。カラオケの前まできて「私カラオケは狭いんでいやです。寝てて落ちちゃったことあるんです。漫画喫茶無いんですか?」とYに言われた。カラオケで寝たことあるんかい、ほんて落ちるんかいと思った。
電車に乗って一駅、また漫画喫茶に入った。今日はワイドの部屋があいていて広かった。

Yを寝かせて漫画をよんだ。
Yは寝言で「薬とかしてません〜」「栄養つないでません〜」って言っていた。僕が『大丈夫だよ〜代わりにやっておくから』と言うと「すみません〜」と言っていた。可愛いけど、寝ながらも仕事してるなんて大変だし、しんどいだろうなと思った。

Yが起きて、僕はまた好きだと伝えた。「好きだから付き合って欲しい」と

来週岡本太郎展がある。それまでに岡本太郎の本を読もうとしていた。そこには「自分をぶち壊せ!」「人生において2つの道があるとき、もっとも困難な方を選べ!」と書いてあり、今までの保守的な自分をぶち壊して、後輩に手を出すという困難な道を選ぼうと思ってしまった。

Yは「分かりません〜」といつもの調子だった。

へんな雰囲気になったときに、Yのマスクを外して、唇を近づけた。
Yは避けなかった。
僕は勇気を出してキスをした。

僕たちは付き合った

Yも僕への思いを伝えてくれた。恥ずかしそうにしていた。

それからYは僕の腕を触ったり身体中をくすぐってきたり急に接触が増えた。

Yから「ギューは?」と言ってきてハグをした。可愛すぎるだろ…

暴走してしまいそうで、おかしくなっちゃいそうだった。

Yとのこと⑧

モディリアーニを見に行った数日後、仕事で会った。
普通に接した。
この日のYは少しおかしかった。朝から少し不安な顔をしていたし、僕が指導することをすぐに理解できたような感じはしなかったし、ボーっとしていた。
仕事が終わりの時間になり、今日の振り返りをした。最初は頷きながら話をきいていたYが、急に固まりだしたのが横目に見えた。あれ?話聞いてる?って思ってYをみると、Yが泣いていた。え?泣いてる??
新人ができないことがあったり、やらかした時に泣いちゃうことはよくある。Yは全然泣き止まなかった。
泣き止まないから少し場所を変えて人目につかない所にいった。45分ぐらい泣いていた。僕はどうしたらいいか分からなくて変な話をしたり、話題を変えたりした。泣き止まなかった。

僕は泣いてるYがたまらなく愛おしくなった。
抑えられなくなって僕は「Yは俺のこと好きか?」聞いてしまった。
Yは「わかりません!」と泣きながら言っていた。
分からないよなぁ、そんなこと言われてもな
と思った
「でも上の方にはいます!」と泣きながら言われた。なんだか良くわからないけど嫌われてはないらしい。

「もし1年たって、俺のこと好きでいてくれたら付き合うか」といったらYは少し頷いた。ような気がした。

KとRがやってきて少し泣き止んだYを連れて帰ってくれた。なんで泣いたのかは良く分からないけど、もうちょっと優しくしないといけないなと思った。

僕は次の休みもYを誘った。Yは三連休だったから1日ぐらいなら会ってくれるかなと思った。

Yは漫画喫茶に良く行っていたって言ってたから、僕は行ったことがないから少し興味があった。

僕は周りに少しでも人がいると素直になれなくて怒りやすくなって良いことがないから、Yとちゃんと喋れる空間を用意したかったってのも理由の1つだ。

Yはまた二つ返事でOKしてくれた。こいつなんでもOKするな…


待ち合わせ場所にきたYは今日も可愛かった。僕はまた節目がちに挨拶して漫画喫茶に向かった。

Yの好きなものやみてきたものを体験して理解したかった。

漫画喫茶に入っておすすめされた漫画を持って個室に入った。

でも全然漫画は読まなかった。

2人でいろんな話をした、お互いの話。

Yは疲れてるのか眠たそうだった。

新人はなにかと身体的にも精神的にも疲れるだろうから僕は寝かせてあげた。

寝ているYも可愛かった。

う〜う〜とうなされていて可哀想だった。

僕はもうどうでもよくなって、別に先輩後輩とか職場の他の人がどうとか、もうどうでもよかった。

Yに「好きだよ」と伝えた。「Yは俺のことどう思ってる?」

Yは「分かりません!」「分からないですぅ!」って言ってた。
分からんし、どうしていいか分からんよなぁ
先輩に急にそんなこと言われても、メリットデメリットもあるし、すぐには答えは出ないよなぁと思った。

僕はどうでもよくなって、暴走していた。
「Yが好きって言ってくれたらチューできるのにな」「言ってくれないのか」とか言っちゃって調子乗っちゃって、気持ち悪い。死にたい。

その日もYは帰りたくなさそうにしていた。
Yに何かあったら死んでも死にきれないから早く帰らせないとと思う反面、一緒に居たいとも思った。帰りの電車の中Yはずっと僕の腕を抱きしめていた。恥ずかしいよ、人前で…。

「先輩の腕が恋しい…生きていけない」

ってラインがきた。

たぶん僕もおかしいけどYも充分おかしいんだと思う

Yとのこと⑦

Yの耳には9つのキラキラしたピアスがついていた。でもじっと見るのも気持ち悪いから見れなかった。

僕は前の彼女と7年も付き合ってたから、久しぶりのデートって感じで全然感覚が掴めなかった。相手が自分のことを好きなのかを探りながら、相手に自分のことを好きになって欲しいって考えながら話して動くのってすごく神経を使う。疲れる。でもそんなことぐじぐじ考えててもしょうがないなとも思った。

僕はちょうどその時『野生の思考』レヴィ=ストロース1962年著を読んでいて、それの話をした。ものすごく分かりにくくて変な話をしたと思う。Yは頑張って理解してくれようとしていたし、笑って話を聞いてくれた。

僕が道を間違えて怒らずにいてくれた。めちゃくちゃ暑いのに、申し訳ない。

前から自転車が来た、僕は避けようと思った。その時にすでにYが減速して僕の後ろにスッと入って自転車を避けた。
僕は感動した。
僕は元彼女と歩いていて、前から自転車が来た時に減速して彼女の後ろに入って避けようとした。すると彼女も減速して僕の横にピッタリついてきた。それでは自転車は避けれない。元彼女は自転車が前に来ていることに気づけなかったし、僕が何で減速したのかも理解できていなかった。最初は僕は自転車を避けるために減速して1列になって避けようねとしっかり解説したが、それを何回も何回も元彼女は繰り返した。ついには7年たっても繰り返した。

それを出会ったばっかりのYがやってのけたから僕は感動してしまった。
もうこの瞬間には僕はYと一緒に人生を進んでいきたいと思ってしまっていたのかも知れない

暑い中30分ぐらい歩いて入ったランチでも人がいっぱいで20分ぐらい待つことになった。申し訳ない、予約しておけばよかった。僕としてはYと話す時間が増えたからよかったと思ってたけど、Yに幻滅されないかなと不安だった。誘ったなら予約しておけよ!って。こわいよ〜

お昼ご飯はYとはサンドイッチを頼んで半分ぐらい食べて残りは僕に食べさせた。食べなすぎたろ。ここでやっとちゃんとYの姿を見れた。可愛い格好だった。うぬぼれにも僕と会う時に可愛くしてきてくれたことが嬉しかった。

お昼のあとモディリアーニを見に行った。
僕は作品の解説をしっかり読むし、結構近くで絵を見るタイプだけど、Yは遠目でみるタイプだった。(あぁ、興味ないよな…別に美術館なんて若い子には楽しくないだろうしなぁ、つまんないよなぁ)って思った。でもYは視力が良く2?ぐらいあるらしく、別に近くに行かなくても見えているらしい。本当か?

Yをエスコートしながら美術館を回った。Yは華奢で、洋服がひらひらしていね、少し良い匂いがして、僕はこの場で抱きしめて持って帰りたくなった。危ない。暴走してしまいそうだった。

美術館をあとにして近くに科学館があって入った。Yはプラネタリウムが好きらしくてもうラストの公演だったから入ってみた。声優の梶裕貴の声だった。Yが声優が好きだって知っていたから、始まった瞬間Yの方を見た。Yも驚いた顔で僕を見ていて目を見合わせていた。
僕はプラネタリウム中寝た。睡魔に勝てなかった。緊張して早起きしちゃってたし。
昔彼女に映画中に寝てバチギレられたことがあったから、やらかしたと思った。
でもYも「私も寝ちゃいました〜」と言っていた。本当かどうかは知らないけど、気を使ってくれたのかもしれないけど。嫌われなくてよかった。

帰ろうと思って科学館の出口で運命の出会いをした。
そこいたのは”學天則”。
みなさんご存知だろうか、東洋初のロボットである學天則。写真や文章でしか知らなかったけど、いつか見てみたいなー、その時代に生きてたら見れたのになーってずっと思っていた。それが急に目の前に入ってきて一瞬でテンション爆上がりしてしまった。Yに「写真撮ってくれ!」と頼んで撮ってもらった。

夕ご飯を食べに向かった。こほ時も僕は方角を間違えた。Yは怒らなかった。暑いし、ヒールも大変だった思う。申し訳ない。

おかしかった。僕はいつも東西南北がなんとなく分かるし、地図をみて方向を間違えるなんて有り得なかった。たぶんすごく緊張していたんだと思う。新しい自分の発見だった。僕も緊張するといつもの自分じゃなくなるんだなって思った。

夜ご飯を食べていっぱい話をした。学生時代に付き合っていた彼氏と別れた理由を話してくれた。Yが一方的に振ったと思っていたけど、しっかりと理由があって少し安心した。

Yが僕のことを好きか確信は持てなかったけど、僕の気持ちは分かった。Yのことが好きだと思った。だから別にYにどう思われても、他の人にどう思われても良いやって思った。だから迷わず帰り道にプーさんのぬいぐるみをお土産で渡した。喜んでくれて嬉しかった。

「(學天則を見つけたとき)今日イチめちゃテンション上がってましたもん。私に会った時もそんくらいの反応してほしかったよってくらいでした」
「私人生で學天則に嫉妬する日が来るとは思ってなかったです」
「でも喜んでるのみるの楽しかったです」
「先輩がくれたプーさんが、私の上に乗っかってくれるんですよ、鼻血出そうです」

と帰った後にラインで言ってきた

いやいやもうこれで俺のこと好きじゃないってのは無理があるよな

でも僕は自分に自信がないし、女性の考えてることは分からないし、こわいし

でも今日が楽しかったことは確かだった