空想社会人日記

※フィクションです

Aとのこと【最終回】

最近の僕は気分が良くて、体が軽くて、大学に入学し一人暮らしを始めた時、あの時と同じぐらいの解放感と自由を感じていた。

僕はAとつい最近別れた。19歳のころから付き合っていたから7年ぐらいになる。長かった。僕はAのことは嫌いじゃない。ただ、色々あってこの人とは結婚できないなと思ってしまった。それは、彼女の僕が納得がいかない部分を受け入れることができなかったし、その余裕が僕にはなかったんだと思う。方向性の違いゆえの解散であり、ビートルズのような解散ではなく、BTSのような解散に近い。僕たちが付き合っているという状態は僕たちを人間的に成長させるものではないと判断したって感じ。

去年から、職場で新人教育担当になっている。自宅では彼女の、職場では新人の教育担当という二重生活がしんどかったのかも、仲が良い時もあったけど常に二人の間でピリピリとした空気は流れていたしお互いに良い影響は与えていなかったと思う。去年、僕が結婚するから準備をしてほしいと宣言したが彼女の方は何も行動してくれなかった。1年が経ちあとあと聞いてみると「何をしていいか分からなかったから」と。報告連絡相談ができていない新人と同じレベルだった。彼女はすごく優しいし良いところはたくさんあるが、少しの欠点に僕が適応できなかっただけだ。それを僕は欠点だと思うけど、果たしてそれがこの世界を基準にした時に良いのか悪いのかはわからないし、何が普通かなんて誰にもわからないから。

僕はこの数年間、思えば彼女のことを常に気にかけ、気をつかって生きてきた。それが良くなかったのかもしれない。なんでも先先やってあげてたし、色々と未来を考えて先に良くない選択肢を潰そうと動いてきた。そんなことをしていたから彼女は何もできない子になってしまったのかもしれない。僕にも責任はある。彼女は同い年だし、本来こんな言い方をするのは良くないし、何様だよって感じだけど、この数年の経験で僕たちの上下関係は明らかだった。

そんなことを考えて、彼女に別れを切り出そうと思っていたのは今に始まったことではない。もう学生を卒業した時から、いや、する前からずっと悩んでいたことだった。彼女の欠点は僕がカバーして、僕の欠点は彼女がカバーしてくれれば良いと思っていたが、彼女にそんなことをするパワー、余裕はなかった。僕は彼女と”結婚したい”と”別れたい”を同時に考えていた。僕の中で一つのターニングポイントだった25歳という区切り、そのタイミングで結婚できなかったのは大きい。25歳までは勢いで、好きだという気持ちだけでなんとかなると思っていたが、彼女が結婚に向けて一切動かず26歳になって冷静に考えた時に、この人じゃダメだ‼︎と思い立った。

僕は映画を見たり、本を読んだり、1人の時間を設けて、想いにふけったり、インプットの時間を作って、そこで手に入れた知識や経験を誰かに喋ったり喋らなかったりする。僕はもともと勉強ができないから、それがコンプレックスでそんなことをするのだと思うけど、なんだか頭が良くなった気がして好きだった。でも彼女と過ごすようになってインプットの時間が極端に減ってしまった。アウトプットの時間だけになってしまい、もう僕の引き出しは空っぽになってしまい、インプットしても自転車操業だった。それも僕を苦しめていたものだとも思う。

そんなことをずっと何年も考えて、苦しんでいたものだから、今更別れを切り出した時もそこまで悲しくはなかった。彼女は泣いていた。でもここに至るまでの道のりの僕の悲しみを理解はできていないだろう。もう別れる覚悟なんて何年も前からできていたのだ。

僕は1番よく喋る人には言っていた「この先、僕のことを今の彼女以上に好きだと言ってくれる人が現れたら、僕はすぐにその人と一緒になる」と。

その人がついに現れたことが彼女と別れた最大の理由だ。