空想社会人日記

※フィクションです

Yとのこと③


僕は彼女(元)も去年の新人も、まったくと言って良いほど褒めなかった。
僕は自分ができると感じたことは他人がやっていてもすごいなと思わない。サッカー選手や野球選手、プロの人をテレビでみても、少しでも自分ができるなと思ったら全然すごいと思わない。
そんな感じで後輩や彼女をみてても、当たり前だろと思ってしまって褒めようという思考にならない。でも1番の理由はなんだか恥ずかしいから。面と向かってすごいね、よくやったね、がんばったねなんてなんだか恥ずかしくて言えない。キャラじゃないし。自分が新人の時はがんばったねなんて言われたらそりゃそうだろ‼︎って思ってたし。自分は褒められるより、怒られて成長するタイプだったから、むしろ怒られたかった。
でも褒めないといけないのはよく理解しているし、時代が時代だから。それに僕も褒められて嫌な気持ちになることはなかった。
だからこっそり僕の1年間の目標は頑張っている後輩や新人を褒めることと決めていた。
でも僕が褒めるより先にYが僕のことを褒めまくってきた。逆だろ。

僕はYが怖い。僕のやることなすこと全てを肯定的に受け取り、褒めてくる。カルト信者と教祖様の関係だ。盲信されているのだと思う。でもそうやって真っ直ぐに僕の後ろを着いてきてくれるからこそ、僕も素直にYに接することができているのだと思う。僕もYを褒めようと思った。どんな些細なことでも良い。Yが少しでも頑張っていることは褒めようと思った。早く起きたり、そもそも仕事場に来ることだって学生から社会人になった時は変化として重くのしかかるものだから。その勢いでKやRや、その他後輩を褒めれるようになった、だからYには感謝している。

でもYが僕に向ける態度には異常性を感じた。

Yが勉強を頑張ったらご褒美をあげるシステムを導入した。そうすることで、どこまで進んでいるかをこちらは把握しやすいし、どこまでの指導をすれば良いか明確にわかる。また、勉強してきたものに僕がコメントを付け足すことで、僕がいない時でも先輩に怒られることは減るだろう。また、自分がどれだけ頑張っているかを誰からも理解されないなんて悲しい。
こういうのは始めが肝心だ。とくにYは不安をすごく感じやすいタイプだと思った。だからこそやってきた勉強を僕がチェックして、付け足して返すことで自信を持って行動できるようになって欲しかった。
呪術廻戦にハマってるって言ってたから、勉強を1つ出すたびに、呪術廻戦のビックリマンシールをあげるという条約を結んだ。なにがYに響いて、なにがよかったのかは分からないけど、勉強を出してくれるようになってくれて僕はやりやすくなった。
そういったアプローチをするためにも新人の趣味や休みの日になにしているのかといった情報は必要だと思う。

Yは順調に成長してたし、このままいけば大丈夫だなと思っていた…

Yとのこと②

ひとまず、どの新人がどんな子かを把握するために色んな会話をした。新人と先輩のペアリングを決定するまでの猶予は1ヶ月。その期間の間にどんな性格の子かを見極めて相性を考えて決定する必要がある。
Kはひたすら真面目でKの趣味等の質問をしても「先輩はどうなんですか」と自己開示をあまりしてくれない子だった。
Rはなんだか物理的身体的距離が近かった。いろんなことに気づき、いろんなことを質問してきてくれた。ただその分少し注意力が散漫で集中力がない子だった。そして少し距離が近い。
Yはなんだかよくわからないけど、自分と近い思考をしている子だなと思った。初めて喋った時に僕が「職場の女の先輩はお母さんだと思ってる。お母さんに無理はさせられないし、重いものとか持たせてられないから、手伝ってるよ」と言うとYは「私もイマジナリーお母さんにはそうしてます」と言った。????????。どういうこと?イマジナリーお母さん?シンエヴァンゲリオンに出てきたな、そんなの。「お母さんいないの?」「え?普通にいますよ」「それやったら普通のお母さんでええやん、なんでイマジナリーやねん」「ほんとですね笑」。変なやつだった。でも自分と喋ってるみたいだった。僕もイマジナリー〇〇とか使うから。
そんな感じで受け答えが少し変わっていて、冗談で言っているのか本気なのか良くわかなかった。でも僕もそんな感じなのだ。僕もよく変わっていると言われるけど、自分ではそうは思わないし、人類の平均、ど真ん中だと思っている。Yもそんな感じだった。

新人が入職直後の研修で記入していた課題をこっそり読んだ。Kは小さな文字で真面目な文章を書いていた。また何度も書いては消して書いた後があり、あぁこの子は真面目な子なんだなと思った。
Rは真面目な文章は書いてあるが、研修で学んだことを踏まえて新しい自分の考えを書いていた。この文章構成は僕も良くやる。研修を実施したやつはこういう学びをして欲しいんだろ?みたいな文章だ気がきくし頭が良いんだろうなと思った。
Yはすごく気持ちが乗った文章を書いていた。読んでいて1番面白かった。書き直した後がなく、文章の装飾が多く、気持ちを乗せてでスラスラ書いたんだろうなと思える文章だった。形容詞の装飾が多く、簡潔に人に伝えようと思ったらもっと削ってギュッとした文章に変えることはできるけど、そうじゃない分思いが伝わってきた。Yは面白いやつだなぁ〜、Yの指導係になれれば楽しいだろうなぁ〜と思った

新人は最初の夜勤は先輩の後ろをついて周り、どんなことをしているのか見て学ぶ。夜勤に慣れるという意味もある。シャドーというやつだ。新人がどの先輩の夜勤のシャドーするかは上司が勝手に決めることになっている。Yの夜勤シャドー研修は僕が担当した。その時にいっぱい話をした。今年一年の目標や勉強の仕方、家で何をしているのか、家族構成や趣味の話など。
僕は新人が来たら家族や恋人の話を聞くようにしている。気になるからじゃない。仕事で疲れたときに話を聞いてくれる人や心の支えとなる人がいるかどうかは重要だからである。今年の新人は全員恋人はいなかった。
Yは「Rは最近フラれたんですよ。私は2回生の時に少し付き合っている人はいましたけど、今はいません」といっていた。
Rは「最近お別れしちゃいました。Yはもともと追っかけ?みたいな感じで猛アタックしたんですけど、なんか色々あって別れたんですよ」と前に言っていた。よく分からないけど、今現在いるかいないかが気になるだけであって、過去のことは正直どうでも良いから深くは聞かなかった。

僕は新人を指導する時は、あまり技術や方法は口うるさく指導しないようにしている。そんなものは上のおばさまたちがすることだ。僕はどちらかといえば、こずるいやり方や、考え方、職場での立ち回りの方法など、メンタルや精神面、思考面に働きかけようとしている。僕の性格、特性もあって変な例えや抽象的な表現。漫画や本、映画からの引用を用いて指導することもある。

KとRは話していると僕の発言に対して「え?どういうことですか?」となる場面が多かった。しかしYはふむふむと僕の話を聞いて、納得している様子だった。Yには僕の言っていることが理解できるらしかった。Yの話を聞いていくと、好きな漫画はジョジョであり、人生のバイブルであることがわかった。僕と同じだ。なるほど、だから僕の言っていることが理解できるのかッ‼︎と思った。
ぜひ僕の黄金の精神を受け継いでいって欲しい。

指導係3名が新人3名の誰を指導するのか決めて上司に報告するタイミングがやってきた。本来は新人の特性、得手不得手と指導係の特性、得手不得手をいいように組み合わせて決定する。しかし、今年の新人も指導係も特に目立ったことはなく誰がどの新人を指導してもあまり変わらないのではないかという話になった。
僕は、完全にYの指導係がやりたかった。Yは僕の話を引っ掛かりなく理解してくれるため、圧倒的にやりやすかった。また、趣味や嗜好、思考が似ていた。だからお互いにやりやすいのではないかなと思っていた。でもそんな理由でYが良いです‼︎なんて言えないから、黙っていた。

誰がどの担当になっても良いから、夜勤一緒になったペアで1年間やっていこうかという話に最終的に落ち着いた。嬉しい、僕はYの指導係だ。憂鬱な気分が晴れていく気がした。僕は指導係は去年もやっていて、もううんざりしていたからだ。でも俄然やる気になった

Yとのこと①

Yと出会ったのは2022年の4月。僕は社会人4年目、Yは1年目。僕は1年目の指導担当だった。僕の仕事では、新人1人につき、先輩1人が担当となり1年間面倒をみるというシステムがある。今年は新人が3名であり、指導担当者の先輩も3名、誰がどの担当になるかは未定である、新人の反応や相性を見ながら組み合わせを決定することになっていた。
K、Y、Rの3名が僕の職場にやってきた。
初めての顔合わせの日に僕は新人に技術を指導する係で、1日中教えた。
Kは一番真面目で、言われたことを言われた通りに実施し、オリジナリティを出すのには時間がかかるタイプ。
Rは言われたことを踏まえた上で、こうしたらもっと良くなるかなと考えたことを実施しオリジナリティに溢れていた。
YはKやRがやっていたことを見ていないのか、緊張し過ぎてるのか、前2人がやってみて指導したことを踏まえずに実施し、自我が強いのか、天然なのか、前の2人をみていないのかよくわからなかった。
Yは耳に穴がいっぱいあいていた、「私ピアスの穴が9個あるんです」(…なんで奇数やねん、普通両耳同じ数で偶数ちゃうんか?でも俺奇数好きやしなぁ…)「右が6個あいてて、左が3つあいてるんです」(…なんで右の時は個で左のときはつやねん単位揃えへんのかい。ほんでなんで6と3やねん。)
面白いやつだなと思った


僕は身につけているものや、所作、目線の動きなどで大体どんな性格、タイプがなんとなくわかる。わかるというよりは、偏見や決めつけに近いが、そうやって判断している。
Yが技術を実施している時に別の先輩がやってきて少し指導をした。その時に僕の肘にずっと手を触れながら指導を受けていた。僕は「あぁ、この子は何かに依存する子なんだな」と思った。
その日僕はYの肘がめちゃくちゃしわしわなことが気になって仕方がなかった。そんな僕も変わりものだが、言いたくてしかたなかった。我慢できなくて「なんかYさんの肘って脳みそみたいだね」と言った。Rが「先輩、それセクハラですよ」と。反省した。冗談のつもりだったけど、セクハラではないとしても、なんらかのハラスメントであることには違いない。迂闊であり思慮に欠ける行動だったと反省し謝罪した。

のちにYから「最初に会った日に私の肘みて、脳みそみたいって言ったじゃないですか。私それ聞いて一生この人に着いていこうって思ったんです」と言われるのは先の話だ。

僕は自分に自信が持てないインキャだから他人の顔、目をみて話すことができない。だからあんまり新人の顔は見れなかった。特にYは目が大きくてクリクリだったから見れなかった。綺麗なものは自分の矮小さを否応無しに分からせられてしまうから見れない。でもゲノセクトポケモン)みたいな顔をしてたことだけは覚えている。
これが僕のYとの出会いである。

Aとのこと【最終回】

最近の僕は気分が良くて、体が軽くて、大学に入学し一人暮らしを始めた時、あの時と同じぐらいの解放感と自由を感じていた。

僕はAとつい最近別れた。19歳のころから付き合っていたから7年ぐらいになる。長かった。僕はAのことは嫌いじゃない。ただ、色々あってこの人とは結婚できないなと思ってしまった。それは、彼女の僕が納得がいかない部分を受け入れることができなかったし、その余裕が僕にはなかったんだと思う。方向性の違いゆえの解散であり、ビートルズのような解散ではなく、BTSのような解散に近い。僕たちが付き合っているという状態は僕たちを人間的に成長させるものではないと判断したって感じ。

去年から、職場で新人教育担当になっている。自宅では彼女の、職場では新人の教育担当という二重生活がしんどかったのかも、仲が良い時もあったけど常に二人の間でピリピリとした空気は流れていたしお互いに良い影響は与えていなかったと思う。去年、僕が結婚するから準備をしてほしいと宣言したが彼女の方は何も行動してくれなかった。1年が経ちあとあと聞いてみると「何をしていいか分からなかったから」と。報告連絡相談ができていない新人と同じレベルだった。彼女はすごく優しいし良いところはたくさんあるが、少しの欠点に僕が適応できなかっただけだ。それを僕は欠点だと思うけど、果たしてそれがこの世界を基準にした時に良いのか悪いのかはわからないし、何が普通かなんて誰にもわからないから。

僕はこの数年間、思えば彼女のことを常に気にかけ、気をつかって生きてきた。それが良くなかったのかもしれない。なんでも先先やってあげてたし、色々と未来を考えて先に良くない選択肢を潰そうと動いてきた。そんなことをしていたから彼女は何もできない子になってしまったのかもしれない。僕にも責任はある。彼女は同い年だし、本来こんな言い方をするのは良くないし、何様だよって感じだけど、この数年の経験で僕たちの上下関係は明らかだった。

そんなことを考えて、彼女に別れを切り出そうと思っていたのは今に始まったことではない。もう学生を卒業した時から、いや、する前からずっと悩んでいたことだった。彼女の欠点は僕がカバーして、僕の欠点は彼女がカバーしてくれれば良いと思っていたが、彼女にそんなことをするパワー、余裕はなかった。僕は彼女と”結婚したい”と”別れたい”を同時に考えていた。僕の中で一つのターニングポイントだった25歳という区切り、そのタイミングで結婚できなかったのは大きい。25歳までは勢いで、好きだという気持ちだけでなんとかなると思っていたが、彼女が結婚に向けて一切動かず26歳になって冷静に考えた時に、この人じゃダメだ‼︎と思い立った。

僕は映画を見たり、本を読んだり、1人の時間を設けて、想いにふけったり、インプットの時間を作って、そこで手に入れた知識や経験を誰かに喋ったり喋らなかったりする。僕はもともと勉強ができないから、それがコンプレックスでそんなことをするのだと思うけど、なんだか頭が良くなった気がして好きだった。でも彼女と過ごすようになってインプットの時間が極端に減ってしまった。アウトプットの時間だけになってしまい、もう僕の引き出しは空っぽになってしまい、インプットしても自転車操業だった。それも僕を苦しめていたものだとも思う。

そんなことをずっと何年も考えて、苦しんでいたものだから、今更別れを切り出した時もそこまで悲しくはなかった。彼女は泣いていた。でもここに至るまでの道のりの僕の悲しみを理解はできていないだろう。もう別れる覚悟なんて何年も前からできていたのだ。

僕は1番よく喋る人には言っていた「この先、僕のことを今の彼女以上に好きだと言ってくれる人が現れたら、僕はすぐにその人と一緒になる」と。

その人がついに現れたことが彼女と別れた最大の理由だ。

欅坂46

先日欅坂46の『僕たちの嘘と真実 Documentary of 欅坂46』を観た。
この映画の公開は2020年9月。当時の僕は社会人2年目。

正確には観たというより、やっと観れた。

最近でいうと、シンエヴァンゲリオンスパイダーマンノーウェイホームといった映画があったが、それらを観て僕はなんだか悲しい、寂しい気持ちになった。
随分昔、小学校の時に出されたナゾナゾの答えをずっと考えていて、ついにその答えを教えてもらったような嬉しい感覚があった。
それと同時に、卒業を言い渡されるような、強制的に終了の宣告をされたような、もうこれで終わり!これが終われば子供じゃありません、もう明日からは大人です!頑張ってください!みたいに言われた感じがして悲しくなる。
この感じを言い表せる言葉ってあるのだろうか

僕は僕の中の欅坂46を終わらせたくなかった。
だから当時映画館には観に行かなかった。
泣いちゃうかも知れなかったし。

僕はアイドルのファンではないと思っている。僕がファンなら本当のファンに怒られる。僕は欅坂46は大好きだが、握手会には一度も行ったことがないし、CDはKEYAKIHOUSEが見たくて黒い羊をメルカリで全タイプを安値で買った。ライブは2018年のアンビバレントが発売された後の夏の全国アリーナツアーしか行ったことがない。当時彼女がチケットを取ってくれた、ありがとう。ちなみに僕は、人生で2回しかライブにいったことがない、欅坂46小田和正。その程度ってこと。

僕は学生の頃はほぼ全ての番組(主にバラエティー)を録画し自宅に帰ってから全ての番組を徹夜で1,5倍速でみるという生活を送っていた。
だから欅坂46を割とはやい段階で知っていた。

2015年に『欅って、書けない?』という彼女たちのバラエティー番組が始まった。単純に面白かった。
そして2016年にデビュー曲史上最強の曲『サイレントマジョリティー』が発表された。僕が20歳になる少し前だったと思う。その時の衝撃は計り知れなかった。

サビでセンターの女の子が後ろから歩いてきて、それ以外のメンバーはしゃがんでセンターの子の花道を作っていた。
歌詞も挑戦的で攻撃的ですべてが衝撃だった。
ましてや僕は、サイレントマジョリティーを発表する前に、彼女たちのバラエティー番組での様子を見ているから余計に、あんなに良い子たちがこんな曲を歌うのかと。
そしてこんな強烈なメッセージ性、他のアイドルがやっていただろうか。まして同時期にいた他のアーティストという括りでみても誰かやっていたのだろうか。おそらく同じようなことを挑戦していた人たちはいるかもしれない、でも僕の耳に届いていないということは一般大衆の耳には届いていないはずだ。インディーズのそこらのバンドマンではない、AKB、乃木坂と続いてデビュー、世間の注目を集めやすい女性アイドルがやったからこそ意味があったし、多くの人の耳に届いたと思う。
坂道グループの名前を背負って、ソニーからデビューする子たちが、可愛らしい思春期真っ只中であろう子たちが歌うということがどれだけセンセーショナルであったか。僕は欅坂46はアイドルという歴史において、突出した影とそれを凌駕する程の輝きを持ったグループであると思っているし、チンケな言い回しであるが、伝説のグループだと思っている。

このブログは誰も見ていないし、見ていたとしてもこの映画を見ているはずだと思うからネタバレは普通にすると思う。

この映画は欅坂46の5年間を追いかけたドキュメンタリー映画ではあるが、おそらく欅坂のファンでなくとも面白い映画になっているのではないかと思う。普通に映画として面白い、架空のアイドルの映画だと思っても面白いのではないか。もちろんある程度知っていた方が良いに決まっているのだけれども。この映画は欅坂のセンター、平手友梨奈が何故あんなことになってしまったのか、何が彼女を苦しめ、何が彼女をああさせてしまったのか、何故欅坂を去ったのかというのが一つの軸としてある。そしてこのことについて、他メンバーのインタビューや、MV撮影時の映像やライブ映像はあるが、肝心の本人、平手友梨奈のインタビューはない。つまり当時の彼女の心境、感じていたことは、他メンバーの証言や映像から押しはかることしかできない。そして、その平手友梨奈の行動にみんなが振り回されていく。これはもう『霧島部活やめるってよ』と同じである。本人は出てこないけど、それによって影響された周りが、あれやこれや言って、物語が進んでいく。そして進んでいくうちに本人の像がぼんやり浮かんでくる。そういった映画になっている。だから欅坂のことを知らない人でも楽しめるのではないかと思う。

冒頭、ライブ映像から始まる。夏の全国アリーナ2018の『ガラスを割れ』。最後のサビでセンター平手が、突如として他メンバーを置いてステージから飛び出て会場の中央まで伸びる花見を踊りながら疾走。そして曲の終了と共に彼女は落下する。

暗転。

そして聞こえてくる明るい声。画面が明るくなるにつれて、それがセンター平手のデビューライブに向けて緊張しながらもセリフを練習している無邪気な姿だとわかる。他メンバーに抱きついたり、緊張してできないよ!って表情や笑顔だったり、表情豊かである。

面白いよね、映画としても。まずここは最初のグッとポイントである。
もうそんなどこにも彼女はいないのだ。いるかも知れないが、僕たちがそれを見れる日は来ないだろう。

謎の女:ミサキ④【どういうこと?】

僕たちはお寿司屋さんに入った。
そしてこのミサキという女、30分で帰ったのだ。



店に入るとすぐに、店員さんに注意を受けた。
「飲み物の持ち込みは控えてください」
豆乳である。
豆乳飲んで男と待ち合わせすな、ほんで飲みきれ

席についてマスクを外した。
この時初めて僕はミサキの顔を見た。向こうも僕の顔を初めて見たと思う。
正直な話、意外と可愛いなと思った。僕は、かっこいい女性がタイプだ。ミサキはどちらかというと可愛らしい感じだったからタイプではないけど、少なくともブスではなかった。
反面、僕はブスだからミサキはさぞがっかりしたことだろう。

この時やっとミサキを見たと思う。逆ナンされた時は緊張していて見れていないし、僕は根っこがインキャだから女性の顔を見て話すことなんかできない。
そこでミサキがスーツを着ていることに気がついた。
ミサキは僕に最初女性専用のエステティシャンだと言っていたが、どうやらそこらへんの会社の事務に転職していたらしい。
本当か!?

転職してしんどいなら、良い仕事紹介しようか?っと言ってみると
「ええ!何それ! 逆マルチ??」
初めて聞いたよそんなツッコミ。

会話の中で1つだけ気になったのは「なんか、思ってた感じと違うね。かっこいいね」という発言。
その時は何言ってんだよと返したが、おかしな発言だと思った。
まず、第一に僕はかっこ良くない。お世辞にも。彼女にすら言われたことがない。
僕のことをかっこいいと言ったのは人生で2人、高校生のときの同級生のOくんと、職場の先輩のTさんだ。どちらとも変なやつだから、ミサキもだぶん頭のおかしなやつなんだなと思った。それと同時に、攻めてきたなとも思った。宗教、マルチ勧誘のため、そんなことを言ってこっちをその気にさせようとしているのだ。
おいおい、攻めてくるなぁ って言っちゃったもん。
ミサキ、お前で3人目だよ。


「私二郎系ラーメン食べてみたいんだよね」と3皿しか食べず注文の手を止めたミサキが言った。
二郎系なめてんのか、そんだけしか食べれへんかったら絶対二郎系なんか無理やでと突っ込んだ。ちなみにこれは伏線である。
「えーでも食べてみたい。年明け一緒に行こうよ」
まあいいよ。食べれるか?結構しんどいで。
「まあなんとかなると思う」

なんて話をしてたら、ミサキがケータイをみて「あっ!やばい!忘れてた!」
どうしたん?
「ごめん!明日やと思ってた集まりが今日やった。友達が地元に帰るらしくて離れ離れになるねん。それのお別れ会が今日やった」
「ほんまにごめん、これ千円置いていくわ!今日はありがとう」
「じゃあ、年明け二郎食べにいこな!君に初二郎は私がもらった」
と謎のキメ台詞を残し、ハイタッチをしてミサキは去っていった。

いったいどういうことなんだろう。。。

まあでもお腹すいたしお寿司でも食べるか

僕は追加で3皿と茶碗蒸しを食べ店を後にした。

帰りの電車の中、冷静になって考えた。

やっぱり変だ。

僕の予想では、本当は予定なんかなくて、僕がマルチ、宗教の勧誘をバリバリ警戒していてもう諦めて30分で切り上げた、もしくは僕がカッコ良くない、思っていた人とは違って興味がなくなって切り上げた。このどっちかだろうと思った。それぐらい、不自然だった。そもそもそんな大事な集まり間違えるか???

すぐに学生時代の男友達たちに連絡し報告した。


だが話はこここで終わらないのだ。伏線はまだ未回収。
20時30分にミサキと合流し、21時には別れている。22時には家につき、シャワーを浴びて、ケータイを触っていた23時。急に電話がかかってきた。
ミサキからである。

出てみた

「今日はほんまにゴメンな。明日やと思ってたのが今日やってん」
おお、そうなんや
「あのあと大丈夫やった?」
うん、大丈夫。普通にちょっとお寿司食べて帰ったよ
「・・・」
「あのさ・・・実は今日嘘ついてることがあるねん」
え??? どうしたん??
「実は、明日の予定が今日やったって言うたやん?」
「あれ、ほんまは私知っててん。ちゃんと覚えててん」
「でもせっかく、君に会えるから30分ぐらいしか会えないって分かってたけど、会ってん」
あぁ、そうなんや。そういうことやったんか、わざわざありがとう。
「じゃあ次は二郎系やで、絶対行こな」


電話は終了した。



わけがわからなくなった。

まず、30分で切り上げたのは、僕のことを諦めたからではないという可能性が出てきたが、十分その可能性もまだ残っている。ミサキが嘘をついている可能性があるからだ。
そして、30分くらいしか会えないのは分かっていたけど、会えるからあったとのことだが、それが本当なら嬉しいが。僕も移動の時間とお金をかけているわけで30分で切り上げられたら僕にも損害が発生しているわけだ。もう少し他人のことを考えた方が良い。
そして、僕と寿司を食べたあとに予定があるから、それを分かっていたから、あの時ミサキは寿司をあまり食べなかったのだ!!!伏線回収。


急にミサキがわからなくなった。意図が読めない。目的がわからない。


ミサキがもし仮に僕に対して、恋愛的な関係になりたいのであれば僕は彼女がいるわけだから、もう終わらせようと思っていた。
ミサキがもし仮に僕に対して、宗教やマルチ商法の勧誘、高い壺や美術品を買わせようとしてくるなら、面白いからこの関係を続けようと思っていた。

しかし、ミサキはそのどちらでもなかった。30分の食事で勧誘のことなんて少しも匂わせなかった。
それに勧誘するのに二郎系のラーメン屋さんい行かないだろう。

次に考えられるのは、最初に会った時に言っていたとおり「友達になりたい」。
それか「馬鹿」。他人のことはあまり考えられず、自分がしたい時にしたいことをしている人
この2択の可能性が出てきた。

少なくとも、僕の経験上僕のことをかっこいいと言ったり、別れ際に「君の初二郎は私のものだよ」なんて決め台詞を言うやつはどう考えたって、頭のイかれた変なやつなことは間違いないだろう。

もう少しミサキとの関係を続けてみようと思う。

僕がミサキと二郎系ラーメンに行ったのか行かなかったのか。ミサキはどうなったのか。それはまた今度にしよう。

 

謎の女:ミサキ③【食事】


食事の誘いにハイテンションな僕は乗った。
僕はワクワクが止まらなかった。

今日会って僕を勧誘か詐欺をしてくるんだろうなぁ、どんなこと言われるのかなぁ、楽しみだなぁと。心躍っていた。

その反面、仕事終わりになけなしの体力を振り絞って会うわけだし、食事するってことは時間もお金も消費するわけで、めんどくせーっと冷めた自分もいた。

今日、ミサキと会って勧誘や詐欺をしてきたらこの話しを面白体験としていろんな人に話そう!。
もし仮に本当に万が一の場合だが、ヨドバシカメラボードゲームを探している不細工でスタイルの良く無い12時間働いたあとでボロボロの僕に一目惚れをしてしまい、恋愛目的で連絡してきていて食事に誘ったのであれば、めんどくさいし、僕の彼女にも申しわけないしもう関係を断とう!
と考えていた。


仕事が19時半ごろに終わり、すぐにミサキに連絡。20時にドンキホーテ前で落ち合うこととなった。

僕は夜になり、少し怖くなっていた。
行った先で男に囲まれてボコボコにされたらどうしよう。なんか事件に巻き込まれたらどうしよう。

待ち合わせ場所に向かう間にミサキに連絡した。
『ミサキのこと、マルチ商法、宗教の勧誘、なんか高いものを買わせてくる人やと疑ってるから』
『楽しみと怖さ半々やからよろしくね』
先制攻撃だ!!

「そんなの買わせないよー笑」
「うちの事忘れてるな?めちゃ田舎もんだよ笑」

騙されないぞミサキ!!!

ドンキホーテ前で集合と伝えられた。

ドンキて
風情の無い

どうやら買いたいものがあるらしい

僕はもう騙されることは覚悟してたから
『1万円以下なら買ってあげへんこともないよ』
と再度攻めた

「いやいいわ!1万て!爆買いできるやん!笑」

そうなの????

ミサキと初めて出会ってから3ヶ月経っているし、逆ナンという人生初体験でド緊張していたのもあって顔なんて覚えていなかったし、ミサキがどんな外見の人なのか正直わからなかった。

『どんな格好して待ってるの?』

「茶色のコート着てる!」

『茶色のコートだけやったら多分他にもいるからもっと何かない?』

「豆乳持ってる!」


………豆乳??? 
何故??
そんなに豆乳が今飲みたかったのか??

集合場所に行くとケータイ片手にパックの豆乳を飲む茶色のコートを着た女が居た。

居た。

僕はミサキの周りに仲間が待機していないか遠目で確認し、1分ほど監視していたがそんな様子は無かった。

少し安心。

勇気を出して声をかけると思い出せた。確かにこんな声してたわ。

「うちさー、行きたい中華屋さんがあるんだよねー。すぐそこだから行こうよ!」

おい!ミサキ!お前はすぐに自分のホームに持ち込もうとしてくるな!
と思った。
その中華屋さんがぼったくりの店で、ミサキと店長が知り合いであり、男を誘き寄せていっぱい食べさせてぼったくるつもりなのだと思った。
もしくは店の中にすでに仲間が待機していてボコボコにしてくるのかと思った。何もしてないのに。

まあ騙されるのが目的だしそれを楽しむために来てるし、それを覚悟して来たのは自分だからしょうがないかとも思って着いて行った。

ドンキがある道を右に曲がってすぐ

「あれ?中華屋さん無い!あれ?潰れてる!!」

無いんかい!!! 中華屋さん無いんかい!!
潰れとるんかい!!!
ほんですぐそこにあるんやったら待ってる間に下見せえへんのかい!!

ここで僕は思った
こいつ…人を騙す側の人間にしては何かおかしいぞ?
もしかして本当に純粋に逆ナンしただけなのか?
それともおっちょこちょいなだけなのか?

いや、まだ信用するにははやい、はやまるな自分

「えー、私エビチリ食べたかったのになー」
『無いやん中華屋さん、別の道なんかな?ちょっと歩いてみる?』

歩いていると王将があった。

「あ!王将ある!ここならエビチリ置いてるよね、ここにしようか」
『え!?王将でいいの??もっと良い所じゃなくて良いの?』
「全然良いよ」
「あ、でも結構人待ってるね」
「だったら向かいにあるお寿司屋さんでも良いよ」

エビチリ食べたいんとちゃうんかい!!!

そんなこんなで今夜私がいただくのはお寿司に決定した


店に入るとすぐに店員さんが
「飲み物の持ち込みはやめてください!!」

 

豆乳なんて飲んで待ち合わせするから…